君と呼べない君を想う

第一章 千尋の谷を転がり落ちるように恋に落ちた編1

 

 オレは、からっぽだ。中身のない人間。

 気が付くとそうだった。多分、気付いてないだけでずっとそうだったんだろう。からっぽを埋める方法がわからないまま、

家の道場で形だけは武道を修め、高校を出て、今はケンカに明け暮れるクズになった。

クズの自覚は、ある。でもそれ以外の生き方がわからない。

 そんなオレに、少しはマシな生き方ができるかもしれないチャンスがやってきた。

 

 いつものように夜の街でケンカをしていたら、地下ファイターの新人発掘大会に出ないか、という声がかかった。ようは

何でもありの格闘技大会で、そこで注目されれば地下闘技場デビューできるとかなんとか……つまりは合法的に

ケンカができて、とにかく勝てば良いってことだ。 高校からの親友(とオレは思っているが向うはどうだろう?)の蓮も

一緒に勧誘された。蓮も、 一応大学は出たがそのまま何もせずオレとつるんでケンカばかりしているという男だ。

 ただ、蓮はオレよりも逃げ時を心得ているというか、本当に危なくなったら身を引くという タイミングを分かっているというか、

つまりはしっかり者だ。蓮がいなかったら今頃オレは前科が つくか命を落とすか、いろいろとひどい事になっていただろうが、

連のおかげでギリギリで道を 踏み外さないで済んでいる。からっぽのオレが、かろうじて人間らしくふるまえているのは

蓮がいるおかげだ。だから今回も蓮の判断を仰いでみた。

 

 そうして、オレと蓮は大会に出る事に決めた。

 

 そこは体育館に個室がいくつもついている、合宿所のような所だった。エントリーをすませて 番号をもらう。大会中は

その番号ですべて管理される。会は五日間で、その間は個室で寝泊まりし勝手な外出は禁じられている。

やけに管理が厳しいと思ったら、この大会のウワサを聞き込んで調べてきた蓮によれば、この大会は裏で

ギャンブルの対象になっているらしい。誰が勝つか、 どこぞの金持ち達が賭けているのだという。つまりオレ達は

競馬の馬みたいなモノか。オレは、 競走馬のような人間になるという事に、少しだけ満足感を感じた。

からっぽの人間には丁度いいと思った。

 個室は備え付けのベッドと戸棚があるだけの小さな部屋だった。荷物を置いて、道着を持って ロッカールームへ行く。

シャワールームやランドリールームもあって設備はしっかりしていた。 建物自体はちゃんとしたまともな物のようだ。

 オレと蓮は部屋の場所はバラけていたがロッカーは隣だった。一応、連も家の道場に通っていた身だから、オレと蓮は

道着を着るという事をあらかじめ話し合って決めていた。まわりの様子を見てみると、道着やスポーツウェアなどを着ている

格闘家タイプが四割、街でケンカ しているそのままの格好といったストリート系が六割といった感じだ。もっとも、オレなんか

どっちにも当てはまるわけだから、見た目じゃなにもわからない気もする。

 

 「ねぇ、その髪と目の色って天然?」

涼介

 唐突に声をかけてきたのは、オレと蓮のさらに隣のロッカーを使っていた小柄な男だ。身長は百七十ないぐらい、

クルクルはねた金髪にパッチリした青い瞳、人懐っこい笑顔を浮かべた、 美少年といってもいいようなやけにカワイイ顔立ち。

 「あぁ……うん」

 「ハーフ?」

 「いや、おばあちゃんがロシア人で」

 「クォーターかぁ。ボクはね、父がドイツと日本で、母がスウェーデン。四分の一だけ日本人」

義央

 そう、オレは生まれつき髪と目が茶色く、顔立ちも割と濃い。加えて身長百八十五センチと、 どうにも目立つ外見をしている。

そのため中学時代から不良扱いされてケンカを売ってくる奴も あとを絶たず、オレが今のような仕上がりになったのは

この外見のせいもある、と思う。

 「あ……ハーフっていうならこっちの蓮がハーフだよ、なぁ?」

 「まあ……日本と中国だけどな」

 「あーそれだと見た目じゃわかんないねぇ」

蓮

 蓮は身長百七十六センチ、よく見りゃ男前と言っていいと思うが、基本地味で目立たない男だ。 それでもそこそこのクズに

仕上がっているのだから、外見とクズっぷりは関係ないのかな?…… 自分のクズっぷりを外見のせいにした事を、ちょっと反省。

 「ボクは涼介。この見た目で名前だけは思いっきり日本人なんだから、ははは」

 「オレは義央」

 「ギ・オ・ウ?へー珍しい名前だねー、そっちはレン……だっけ」

 「あぁ」

 「ヨロシクね〜ハーフの子のトモダチって大抵ハーフとかクォーターだったりするからさ、もう ボクらもおトモダチってコトでいいよね?」

 ハーフとクォーターだと友だちという感覚がよくわからないが、人懐っこさに引き込まれて なんとなく納得してしまい、そのまま

涼介と何となく会話していた。蓮と涼介はオレの右どなり、 そして涼介の向こう側にロッカールームの入り口のドアがある。

だから人が入ってくると、オレの 目にはすぐ入る。

 

 そしてその時……天使が舞い降りた。

カルラ入場

 一瞬本気でそう思った。ドアを開けて入ってきたのは、波打つ長い金髪に青白いほど白い肌、 うつむき加減で伏し目がちの

切れ長の目、ほっそりしたアゴの小さく整った顔立ち、淡い金髪が 顔の右半分を半ば隠した男……本当に男か?と思ったが、

もし女性だったらロッカールームは別でなきゃマズいわけで、だからアレは男には違いないわけだ。 SPのような黒いスーツを

着ているが、本人にもまわりの雰囲気にも合ってなくて、妙に浮いている感じだ。スーツを着ていても体が細いのがわかる。

音を立てずしなやかにオレの後ろを通り抜けて、オレの左斜め後ろのロッカーにたどり着いた。 ロッカーは番号で割り当てが

決まっている。どう見ても格闘家というより、モデルとしてランウェイを歩いた方が似合いそうだ。背は百八十ぐらいあるようだが、

あまりにも線が細い。 涼介の方がまだ体育会系らしさがある。なんとなく目が離せずにそのまま見ていると……

 

 「ねぇその髪すごくキレイだねぇ。脱色しているの?」

 近寄りがたい雰囲気をものともせず、涼介が近づいて話しかけた。ハーフっぽいのはみんなトモダチというだけあって、

どうやら長い金髪の天使ともトモダチになろうとしているらしい。 物怖じしない奴だなぁ。

 

 「いや、この髪は生まれつき」

 ネクタイをほどきながら天使が答える。

 「へー、生まれつきでこの色はなかなか見ないよ。あ、ボクはすこーし脱色しているんだけどね、でも青い目は天然だよー。

スウェーデンが半分でドイツと日本が四分の一ずつ。あ、 お兄さん顔はアジアンビューティーっぽいよね。どこ系?」

 

 「いろいろ混ざっているらしくて、よく分からない」

 関心なさそうに天使が答える。

 「あぁ確かにいろんなとこミックスっぽいね。あ、ボクは涼介っていうの。お兄さん名前は?」

 

 「カルラ」

 上着を脱いでハンガーに掛けながら天使……カルラが答える。

 「カルラちゃんね。いいなー名前カッコイイねー。ボクなんか見た目と名前のギャップが大きくてさー……」

 涼介がなんやかやと話し続けている。カルラははらりとワイシャツを脱いだ。ほっそりした白い肩や背中があらわになり、

ドキッとしてオレは思わず目をそらして正面を向いた。

 ……なんでオレ、見てはいけないモノを見てしまったような気持ちになっているんだろう? 冷静になって考えてみれば、

ロッカールームで男の背中を見るのはごくフツーの事だ。珍しくもないしおかしくもない。珍しい所があるとしたらそれは

カルラの体がほっそりしすぎている事ぐらい……あー、つまりアレだ。まわりは筋肉質な男ばっかりのこの状況で、

カルラの体が細すぎるせいでなんだか一瞬妙な気持ちになってしまったわけだ。落ち着いて冷静に見れば、

どうって事のない男の体のハズなんだ。……気を落ち着けて冷静な気持ちでいればどうって事はない……

何度も自分に言い聞かせてから、意を決してもう一度後ろを振り返る。

 

お着替えカルラ

カルラは脱いだスラックスをハンガーに丁寧に掛けていた。上下とも脱いで、しかもレースの付いた黒のTバックという

およそ男のパンツとは思えないシロモノを着用していたため、後ろ姿はほぼマッパ。

 

 ……確かに男の体ではある。だけどこれは「どうって事ない」体ではなくて「ただ事でないほどエロい」男の体だった。

ネコ科の獣のような細くしなやかな体つき、真珠のような白くきめ細かな なまめかしい肌、Tバックであらわになった

プルンと丸みのある形のいい小さなお尻。……カーッ と体が熱くなってきた。まだ涼介が話しかけているらしく、

時々涼介の方を向くカルラの横顔が見える。ああそうか。あのキレイな顔にキレイな体がくっついてるからよけいに

エロく見えるんだな……とか考えながら目はTバックの方に行ってしまう。

 

 ……ってゆーかなんだってあんなエロいパンツはいてんだよ!?エロい目で見ちゃうじゃねー か!!

いやむしろこれは見せたいのか?つまりエロい目で見て良いって事なんだな!?見るぞ! ってもう見てるけど。もしも今カルラが

振り返って目が合ったりしたらメチャクチャ気まずい事になるけど、いろんな意味でドキドキしながらカルラの後ろ姿を見つめていた。

するとふいに、Tバックのお尻が布に包まれて覆い隠されてしまった。黒っぽいタイツなんだかズボンなんだかをはいて、

ゆったりした白いシャツを着たカルラは、格闘家というよりラテンダンスでも踊るような恰好でロッカーを離れた。

 

 「じゃーねーカルラちゃん、また後でねー」

 涼介の声に軽く右手をあげて答えたカルラは、ロッカールームを出ていった。

 するとその途端に、室内がざわつき始めた。というか、ついさっきまで涼介とカルラの会話 以外の物音がほとんど

していなかった事に、今気が付いた。まわりのざわめきが聞こえてくる。

 「今のTバック見たか?」

 「あぁエロかったな〜アレ」

 「オレ、アイツならイケる」

 「「オレはごめんだね、アイツ青白くって、幽霊みたいで気味が悪いや」

 

 ……つまり、さっきまで身じろぎせずにカルラのTバックを見つめていたのはオレだけじゃなかったというか、ほとんどみんな

見ていたというわけだ。自分だけじゃなかった事に無意味な安心感を覚えた。

 「エロいって何が?何かあったの?」

 唯一Tバックを見ていなかった涼介にそう聞かれて、ちょっと気まずくて無言で目をそらした。 代わりに蓮が答える。

 「オマエが話しかけてた長い金髪の奴がTバックはいてて、その尻がやけにエロかったって話だよ」

 「えーそうなんだ……ボクもお尻見ておけばよかったなぁ」

 「見てねーの?」

 「話しかけてるとお尻には目が行かないよー、顔は近くで見たけどね。キレイなコだったよ〜 男っぽい感じが全然なくてさー、

白くて細くてお人形みたいでさ」

 涼介と逆方向を向いていると、そっちの方でもカルラの話をしている男たちがいた。

 「あれって格好は違うけど地下ファイターのヴァンプって奴じゃねーの?」

 「ヴァンプって……男好きの男ファイターで、負けたら相手に体を許すとかっていう奴か」

 「マジかよ……だったらお手合わせ願いてーな」

 「おいおい、もし本物のヴァンプだったら、お前なんかが勝てる相手かよ」

 「あんな細い体だったら、パワーで押さえつけりゃイケるだろ」

 ゲスな顔つきの男たちのゲスな会話を聞いて、どうにも不愉快な気分になり、さっさと着替えを済ませてロッカールームを出た。

こんな男たちの群れに紛れてしまったカルラが、 なんだか痛々しい。一人にさせてはいけない気がする。せめて涼介と一緒に

いればよかった のに。蓮と涼介と一緒に試合会場へ歩き出した。

 

 「さっきなんかカルラちゃんのコト、地下ファイターのヴァンプとかって言っていたヤツがいたけど……ヴァンプって知ってる?」

 オレは知らなかったが、蓮は事前にウワサ話を聞き込んでいたから何か知ってるかも……?

 「ウワサだけ少しな。地下闘技場の名物ファイターの一人で、長い金髪に真っ黒の服のたいそう美形な男好きで、

対戦相手と付き合ったり分かれたりしているとかなんとか……どこ まで本当か知らねぇが」

 「ヴァンプって男を惑わす女の魔物っていうような意味でしょ?」

 「話題作りのためにそういう名前でそういうキャラ付けをしたかもしれねーし」

 「まあそりゃそうだね。で、さっきのカルラちゃんがそのヴァンプって事?」

 「そうとは限らないよ、たまたま長い金髪だってだけの別人かもしれないし、服も真っ黒じゃ なかったし」

 さっきまでずっと無言だったが、なんだか無性に黙っていられなくなりオレは言葉を挟んだ。

 「ヴァンプは名物ファイターってぐらいだから、こんな新人大会に出るのはおかしいだろ?」

 蓮の意見の方が説得力があるなあ。

 「やーでもケガや病気でしばらく休んでたりしたら、リハビリ代わりに新人戦にってことも あるんじゃない?」

 「まあな。でも涼介、そんなにヴァンプかどうか知りたいのか?」

 「いや知りたいっていうか……名物ファイターとなるとかなり強そうだし、カルラちゃんはどうなのかなって……

でもなんか本人に、キミってヴァンプなの?とは聞きづらいな〜って思って。一歩間違うとセクハラ発言っぽいし」

 「アイツが強いか弱いかは試合見りゃわかるんじゃねぇか?」

 「そうだね……一回戦で当たらなければね」

 

 対戦相手は大会側のみが把握していて、選手は試合で番号を呼ばれるまでは誰と当たるか分からない仕組みになっている。

これは八百長や闇討ちなどの不正ができないようにするためだ。会場は体育館のような所で、マットを敷き詰めたような試合会場が

二か所用意されていてまわりにはベンチがいくつも置いてある。三十人ほどの選手たちは立ってたり座ってたり体を 動かしていたり、

思い思いに過ごしていた。番号を呼ばれた選手二人が対戦して、終わったら 次が呼ばれる。試合は長いのも短いのもあり、

いつ自分が呼ばれるかわからないのだが、 しばらくするとオレの番号が呼ばれた。

 ……いきなり蓮と当たったらちょっとイヤだなと思ったが幸いそれはなく、相手はロッカー ルームで見かけたゲスいチンピラ風の

男だった。こういう奴とのケンカは一番慣れている。 一応ケンカではなく試合なので最低限のルールはあるが、ルールの範囲内でも

オレは危なげ なく勝った。

 蓮と涼介はどうなったかな……とベンチに座ってあたりを見回すと、ふわりと長い金髪…… カルラの試合が始まった。

相手はカルラのことをどーのこーの言ってたゲスその二のようだ。 ゲスがカルラに向かっていく。カルラはただふわりと歩いた

だけのように見えた……がその 直後、ゲス男はカルラに腕をねじり上げられて床に組み伏せられていた。一瞬だった。

相手の 男も自分がどうやって負けたのかわからないまま負けたようだ。カルラは息も乱さず顔色も 変わらず、相変わらず

青白いまま音もたてずにふわりとマットを降りて行った。

 ……強い。とんでもなく強い。

 実力が違い過ぎて、対戦にすらなってない。……オレは、カルラを弱者扱いしていた自分を おおいに恥じて、反省した。

……確かに合気道の達人とかは小柄でやせた老人なんかがバケモノのように強かったりするからなぁ、カルラもそのタイプか。

テクニックが高ければパワーはそれほどいらない。さっきまでオレは、出来ればカルラとは戦いたくないと思っていたが、

今はどうやって戦ったらいいか必死で考え始めていた。オレは強い奴を見ると火が付くタイプで、 今ここにいる中で一番オレを

燃え上がらせたのはカルラだ。

 力はオレの方が上だろうが、力任せに攻めても受け流されるな……間合いを詰めるか距離を とるか……そんな事を

頭の中でぐるぐる考えていたら、オレが座っているベンチの左隣りに誰かが座った。

 

 左を見ると、カルラだった。

 

 わあああああ!!と声を上げそうになるのをかろうじてこらえた。頭の中でどう戦おうかと考えていた相手がいきなり

すぐ隣にやってきたわけで、どんな顔をしていいものやら分からず オレはかなり戸惑っていたが、カルラはこちらを見るでもなく、

ゆったりと靴紐を結び直していた。下を向いたカルラの横顔は、髪に覆い隠されていて表情は分からない。……肩や腕の方に

目をやってみる。やっぱり、細いなあ……さっきあれほど強いって所を見せつけられたのに、 こうして見ているとそれが

信じられなくなってくる……。それに、こんなに近くにいるのに 体温、熱をほとんど感じない。まるで生きていない人間のようだ。

じっと見ていると、このまま 向うが透けて見えて、ふっと掻き消えてしまいそうな……そんな気がした。その時不意に。

 

 こっちを見たカルラとモロ目が合った。

こっちを見たカルラ

切れ長のクールな眼差しは、研ぎ澄まされた刃のようにギラリと光った。オレは心の中がすっかり見透かされてしまった気がした。

特にお尻をエロい目で見てた事とかカルラを弱いと 思っていた事とか見抜かれていたらどうにも気まずい、何か言われる前に

こっちから何か 言わなくちゃ、と大慌てでしどろもどろになりながらどうにか言葉をひねり出した。

 

 「あ、あの……えっとカルラ……だっけ?さっきの試合見てたよ。カルラって強いんだな。 そんな外見してるからどんな戦い方を

するんだろうと思ってたんだけど……ああいや、弱そう だって意味じゃなくて、ただ格闘家っぽくはないな〜って思って見てたから……」

 こちらをにらみつけたまま、ボソッとカルラが口を開いた。

 「……名前」

 「え?」

 「オレはおまえの名前を知らない」

 「あぁそうか、オレは涼介から聞いてたから……オレは義央」

 「義央……ね、ふーん……分かった」

 刀を鞘に納めるように、カルラの鋭い眼光が和らいだ。カルラは少しうつむいて、自分の 両手に目線を落とす。あぁそうか、カルラは

相手を真っ直ぐ見つめた時には恐ろしいほどの 強さを感じさせるが、目をそらしてうつむき加減になるとその強さが不意に消えて、

儚げでか弱い印象になるんだ。……印象だけで、実際はメチャクチャ強いわけだからだまされてはいけないんだけど。

 「オレのはぜんぶ実線で身に着けた我流の戦い方だから……ちゃんと習った人間が見るといろいろとおかしな所もあるかもしれない」

 自分の両手を見ながらしおらしくカルラが言った。

 「いやっそんな事ないよ!我流だってあれだけ戦えてりゃあ立派な型の一つだよ」

 なぜか励ますように言うオレ。カルラはあれだけ強いのだから、オレが励ます意味なんてあるハズもないんだが。さっきまで

どう戦おうか必死で考えていた相手なんだが。……ダメ だな。か弱い印象にすっかりやられている。カルラは好奇心のこもった目で

オレを頭のてっぺんからつま先までじっくり見てから、言った。

 「義央は……どこかの道場でキチンと学んで、それが物足りなくなっていろんな相手と 対戦したくてこっちに来たって

カンジ……かな?」

 「ああ……うん、そんなカンジ。よく分かるね」

 「物腰とか、体の鍛え方とかでなんとなく……ね」

 そう言いながらカルラは、オレの肩や腕を触ってきた。白くて細い指が、ひんやりしている。

 「ふぅん……じっくり鍛えた、良いカラダ」

 カルラは身を寄せて、その整ったキレイな顔をぐっと近づけてきた。ふんわりと良い匂い がする。

良い匂いのカルラ

 「かなり……好きだな」

 

 そう言って微笑んだカルラは不意に立ち上がり、そのまま振り返りもしないで立ち去って しまった。

取り残されたオレは、しばらくそのままカルラの去った方向を呆然と見続けて いた。

 

2に続く

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