君と呼べない君を想う

第二章 心の奥のパンドラの箱3

 

 ……さて、そんなこんなあってしばらくたったある日の事。

 どーも、蓮です。ここからしばらくは義央にかわってオレが語ります。というのもあのバカがインフルエンザで寝込んだからだ。

「インフルで動けない。カルラをたのむ」という連絡を受けて、仕方なくオレは必要そうな物を買ってカルラの家に向かった。

心配なカルラ

出迎えたカルラはもともと青白い顔色をさらに青くしていた。義央は病院で診察を受けて薬も手に入れて、今は二階の個室に

寝かせてあるという。カルラの後をおって二階に上がる。

 「義央、大丈夫?苦しくない?」

 不安げなカルラが義央の顔を覗き込んでそう言うと、義央は顔を背けながら、

 「あんまり近づかないで。カルラにうつっちゃうから」

 と言ったが、それでもカルラは離れようとせず、儀央は寝返りをうってカルラから遠ざかろうとするが、カルラはそれを

追いかけるように覆いかぶさる。いつか見た画とは逆で、カルラが義央を追いかけている格好だ。

 ……なるほど、カルラを頼むというのはそういう事か。オレは自分が呼ばれた理由を察し、いったんカルラをつれて部屋を出て、

カルラにインフルエンザがうつらないようにしっかり手を洗うように言った。素直に手を洗ったカルラをリビングのソファに座らせる。

カルラは不安な表情で何度も二階の方をチラチラ見た。多分、家族のいないカルラは看病の経験もなく、どうしていいかわからず

不安なのだろう。ぶっちゃけ義央の方はほったらかしでも寝てりゃ治るだろうが、カルラの方はほっといたらロクに食事もとらずに

ぶっ倒れる可能性がある。いや、やせてて青白いので勝手にそういうイメージで見ているだけで、実際のカルラは

もう少しタフかもしれないが、そうじゃないかもしれない。だからオレは、義央の世話ではなくカルラの世話を頼まれたのだ。

 「そんな青い顔して、さてはちゃんと食ってねーな。ホラ、とりあえずプリン買ってきたから一コ食えよ」

 そう言ってオレは持ってきたプリンをカルラに渡した。

 「……義央にも」

 「ああ、あとで持って行くよ」

 スプーンも渡してやると、カルラはうっとりするような顔つきでプリンをゆっくり味わい始めた。甘いモノは好きだと言ってたっけ。

プリンをもてあそぶように、というよりプリンにもてあそばれるように一口ずつプリンを口に運ぶカルラ。

プリンを食すカルラ

……だからなんかエロいんだっつーの。とりあえずカルラをその場に残し、プリンとスポーツドリンクを持って義央のところに行って、こうたずねた。

 「……で、オレはどうすればいい?」

 「カルラには……この部屋に入らないように言って。カルラまでインフルエンザにかかっちゃうと……オレ、自分が寝込むより

カルラが苦しむ方がイヤだし、でもオレをカルラを遠ざける努力をし続けるのは、精神的にかなりキツい……オレだってカルラに

そばにいてもらえたらうれしいけど、でも……そばにいたらうっかりキスしちゃったりしてそしたらカルラが寝込んじゃってそれはイヤで……」

 熱が高いせいかなかばうわ言のように切々と訴える義央。

 「分かった。カルラにはここにこないように言っておく。オレが時々様子を見に来るから」

 「それよりもカルラを一人にしないで……カルラは寂しいと死んじゃうから」

 「死なねーよ、ウサギだって実際は死なねーし」

 「それからカルラに伝えて……そばにいられなくてゴメンって」

 「死に際みてーな事言うなよ」

 「だって……死に際じゃなくても終わり際かも知れないし……オレが寝込んでさびしくなったカルラが、

他の男探して乗り換えたら……オレなんかアッサリ捨てられるかもしれない」

 確かにそうか。今の義央は体よりも心の苦しみの方が大きいわけだな。

 「……分かった。うまくいくかどうかは分からんが、とにかくカルラがよそから男を引っ張り込むチャンスはなるべくつぶして、

カルラが退屈しないように努力をする。その代りオマエの世話はあんまりできねーからな」

 「オレの事はいいよ。寝てれば治るから」

 話が終わって階下に行くと、カルラが食べ終わったプリンの容器を片付けてからソファに戻る所だった。カルラの正面にオレが座る。

 「カルラ、義央からの伝言。カルラはあの部屋には入らないようにってさ」

 目を見開いてカルラがオレの方をじっと見て言った。

 「義央はオレがいたら迷惑?義央はオレをキライになったの?」

 「そうじゃねーよ。カルラにインフルうつしてカルラが寝込むような事になったらつらいから入らないようにって言ってんだよ。

逆にオレの事なんかどーでもいいからオレは入っても平気なんだよ」

 オレは慌てて弁解する。カルラはヒザを抱えて凍えるようなしぐさで丸くなった。

 「それともう一コ、そばにいられなくてゴメンってさ」

 「二人で一緒に病気になっても良かったのに」

 「義央がそれはイヤだって言ってんだよ。カルラに苦しい思いはさせたくないってんだからさ」

 「だって義央がいないと……今寒くってつらいのに」

 義央で温まってるのかオメーは、ととっさに思ったが、これは物理的にというより精神的な意味で言ってる……のか?

どっちにしてもいつも義央にくっついてイチャイチャしてたのは、凍えた体なり心なりを温めるため……だったのか。

まあネコがヒザの上にのってくるのと同じようなものか。

 ……アレ、もしかして今、義央のかわりにオレに温めてほしいとかそーゆー流れか?カルラはソファに横になり、

クッションを胸にギュッと抱きしめた。オレは今カルラと二人きりだという事を急に意識しだして、落ち着かない気分になった。

なんていうか例えるなら「美女と二人きり」と「オリの中でトラと対面」という二つの気分を足して割ったような感じ、とでもいえば

近いだろうか。……あのバカはオレとカルラの間にややこしい事が起きる可能性を考えてねーのか?……ねーな。

アイツがそんなに気が回るハズがない。オレは今ここでカルラに寄り添い温めたりしたら、いろんな意味で後戻りできない沼に

足を踏み入れる事になると思って踏みとどまり、なんか食った方が良いと言いながらキッチンに逃げて、急いで涼介に連絡して

事の次第を説明した。涼介は支援物資を持ってすぐそちらに向かうと答えてくれたので、オレはスープなどを作りながら

涼介が来るのを待った。しばらくするとリビングから涼介の声が聞こえてきた。

 

 「カルラちゃーん、話聞いたよー。これはおかゆとモモのカンヅメ。あとでギーちゃんとこに持ってくねー」

 涼介が来たのでオレはようやく安心してリビングの方に行った。涼介はカルラの右隣りに座っていて、さては

カルラちゃん寂しかった?などと言いながらカルラの肩を抱いたり頭をなでたりしている。カルラもいくらか寒いんだか寂しいんだかが

収まったようで、顔色も少し良くなったようだ。

 「お泊りセットも持ってきたから、今日はカルラちゃんと蓮タンと三人で川の字になって寝ようと思ってね」

 なんだそうなるんだよ!?と一瞬思ったが、よく考えたらカルラが男を引っ張り込むのを防ぐためには誰かがカルラの部屋で

一緒に寝るしかないし、カルラと二人きりになってしまっては意味がないから、確かに三人川の字作戦は合理的で考えられた布陣だ、と納得した。

 「え、でも……並んで寝てどうするの?」

 ちょっと戸惑うカルラに涼介が答える。

 「横になって、怖い話とか恋バナとかするの。たまにはそーゆーのも楽しいよ」

 修学旅行かよ!?と思ったが、よく考えたらカルラは学校に行ったことがないというし、だったら修学旅行ごっこも

アリっちゃアリな作戦か。案の定カルラも、じゃあお布団運んでおくねと言ってその気になったようだ。

 「それからマリアちゃんに連絡したら、仕事のあとこっち来て泊るってさ」

 「ちょっと待て、なんでオマエがマリアさんの連絡先知ってんだよ?」

 「ほらこんな事もあるかと思って。今日だって連絡出来てよかったじゃん」

 ……確かにそうだな。カルラはあの人とは親しいようだし、来てもらえればカルラの寂しさもだいぶ紛れるだろう。

涼介がオレの耳に口を近づけて小声で言った。

 「今かわいそうなギーちゃんがカルラちゃんに捨てられる瀬戸際だって言ったら、マリアちゃんもかなり

危機感を持ってくれたみたいだよ」

 「瀬戸際ってほどでは……いや、もともとギリギリひろわれたようなモンだから、常に崖っぷちか」

 そうして日が暮れてマリアさんがやってきた。カルラが出迎えてマリアさんをソファに座らせると、コロリとそのヒザの上に

頭をのせてマリアさんに甘えはじめた。

 「ちょっともー、どーしたの?義央クンいなくて寂しいの?」

 とくに驚くでも戸惑うでもなく、ふつうにカルラの頭をなでて受け入れてるマリアさん。

 「だって蓮も涼ちゃんもちっともヒザまくらしてくれないし」

 マリアさんのお腹に顔をうずめるようにしっかり抱きつくカルラ。おいおい大胆だな!?……ふつう男と女がこんなに体を

くっつけていたら見ている方が不愉快になりそうな所だが、カルラとマリアさんの場合は半ば女同士でじゃれあっているように見えるので、

まあ呆れはするがムカつきはしないな。マリアさんは、二階の義央が寝ている部屋のとなりに泊ると言ってくれた。これで義央に

なにかあってもすぐ駆け付けられるからと言ってカルラをなだめて、そのおかげでカルラもいくらか安心したようだ。

それから食事を済ませて義央の所にも食べ物を運び、寝る準備をしてカルラのベッドルームに初めて足を踏み入れた。

……イヤ、気まずいわ。いつもここで義央と激しく絡み合ってとかしなくていい想像をしてしまいそうになり、慌てて思考を別方向に

持って行こうとするのだが、すみにシャワーブースがあったりして部屋そのものがなんかエロい。カルラはTシャツにハーフパンツ姿で

かなり大きなベッドに入り、ベッドのとなりに並べて敷いたマットの、カルラに近い方に涼介が、遠い方にオレが寝る事に決まった。

 「どうしよう……オレ、一人じゃ寂しくて眠れないかも」

 不安げにカルラが言う。もっとクールなドSキャラかと思いきやとんだかまってちゃんだな。

 「じゃあボクが手つないでてあげるね」

 となりからベッドの中に手をのばしながら涼介が言った。寂しいと死ぬというのは大げさとしても、寂しいとどうでもいい男にも

体をゆるしてしまう所がカルラにはあって、それがヴァンプイメージにつながったのかもしれない。

 「涼ちゃんの手って、意外に大きくてガッシリして男っぽいね」

 ふとんの中で手をつなぎながら言うカルラ。

 「カルラちゃんて、背が高いわりには手は細くて小さいねー」

 こたえて言う涼介。イチャイチャするなよ、と思ったが、いやこのぐらいのイチャイチャでカルラが満足してくれればそれにこした事はないな。

カルラと手を握り合ったまま涼介が言う。

 「じゃあさ、このままおしゃべりしようか。なんの話がいい?」

 「だったら、義央の事を話して。いつどこで会ったとか、何か知ってる事とか」

 カルラがそう言った。そういえばカルラは義央の事あまりよくは知らないのか。

 「でもボクがギーちゃんに会ったのはカルラちゃんに会ったのとほとんど同時だから、四分の一ロシア人とかそのぐらいかなあ知ってるのは。

あとはカルラちゃんが知ってるような事しか知らないや。蓮タンはつきあい長いんだっけ?」

 「ああ、高校入った時に知り合った。アイツ体デカくて髪茶色いから目立ってケンカを売られやすくて、しかもいちいち売られたケンカを

買ってるもんだから、もう少し適当にやり過ごしてうまく立ち回れよって言ってやってるうちにいつの間にか一緒に行動するようになっちまった。

オレの知るかぎり高校三年間でアイツが恋愛していた気配はない。してたらバレバレだろ、アイツ」

 「カルラちゃんに会ったとたんに変になってたもんねー。ギーちゃんの家には言った事ある?」

 「アイツん家は武術道場だから、オレも高校の頃は通っていた。その後はちょっと足が遠のいているんだが」

 「じゃあ義央の家族も知ってる?もう少しきかせてよ」

 「んー……義央のオヤジさん、道場主はロシア人ハーフのヒグマみたいなイカツい人で、髪も目も茶色くて、まあ義央をもうちょい

ロシア寄りにしたカンジだ。で、アイツは六人きょうだいの四番目で」

 「思ったより多いね、ギーちゃんのきょうだい」

 「上の兄さんと姉さんは道場で指導しているからオレもけっこう会ってる。二番目の兄さんは勤め人で、義央のきょうだいの中では

わりと常識人って感じだ。下は確か弟が中学生で妹はまだ小学生だったかな?下の二人は年がかなりはなれてるんで

オレはほとんど付き合いはない」

 「あ、ついでにボクはねえ、お姉さん三人いる末っ子長男」

 「どうりで涼ちゃん、女の子の扱いが慣れてる感じがするね。まあオレもある意味たくさんのお姉さんに囲まれて

育ったようなものだけど。じゃあ蓮は?」

 「オレの家は、父と弟の三人家族。離婚した母はたまに会いに来て親らしい事なんにもしてねーのに母親ヅラして干渉してくる。

……突然大学行けとか言ってきてムリヤリ進学させられて、それで義央の家の道場に行けなくなったりとか……」

 「蓮タンのお母さんが中国の人なんだっけ?」

 「そう、三回結婚して三回離婚して、そのたびに財産増やしてるっつー女だ。うちの父が最初の結婚で、今思えば

出世の踏み台にされたようなもんだな。言われるままに結婚して言われるままに離婚して。子どもはオレと弟しかいないから

時々来て台風みたいに家をひっかきまわしていく。オレたちはそれを黙って耐える。オレはひたすら言われるがままの父が

ずっとキライだったのに、気が付けばイヤになるぐらいオレも父親ソックリになってしまった」

 「ふーん、だから義央にもうまくやり過ごせって言ってたんだ。義央はなんにでも突っかかっていくし、蓮はやり過ごして逃げる

タイプだから、いっしょにいるとバランスがとれてちょうどいいんだね」

 カルラがそう言って一度寝返りをうって、多分涼介の手を放してからもう一度寝返って体勢を整えた。

 「だからオレはさ、自分に染み付いた逃げ癖がキライだったんだけど、義央といるとそれが役に立つっていうか、自分をキライにならずに

済むというか……義央の姉さんにもさ、蓮君と仲良くなってから弟がケンカでケガをする事が減って助かってるとか言われたから、

そう言われてオレもかなり救われたというか……」

 うーん、とカルラが少し考えこんでから、言った。

 「つまり蓮は義央のお姉さんの事が好きなの?」

 「うえっちょ……何言ってんだよイキナリ!?」

 あからさまに動揺してしまった。これでは答えを言っているも同然だ。

 「だって義央の事を好きなのかお姉さんの方かどっちかって感じだけど、義央の方は違うって言ってたからそれしかないじゃない」

 「そうなの蓮タン?」

 オレはしばらくまくらに顔をおしつけていた。ここまで態度に出てしまったらバレバレだ、とようやく腹をくくった。

 「……義央には言ってないんだから、アイツにはナイショな。オレ……義央の姉さんが初恋なんだよ。母の事もあって

それまで女ギライだったオレが、あの人に会って救われて、気が付いたらすっかり好きになってた」

 「どんな人?」

 カルラが話を促す。

 「なんというか……あまりこういう言い方はしたくねーけど分かりやすく言うなら、義央を女にした感じというか……

ガッチリして背なんかオレと同じぐらいあるし、顔立ちはハッキリしてて髪も目も茶色くて」

 頭の中でイメージしているのか、しばらく無言が続いたあと涼介が言った。

 「でもギーちゃん顔は整ってるんだから、ギーちゃんに似てるなら美人といっていいんじゃないかな?」

 「まあな。ちょっと男っぽいけどまあ感じのいい美人と言える」

 「で、逃げ癖のある蓮は告白とかはしなかったわけ?」

 カルラに図星をつかれた。

 「それは……むこうにしてみりゃオレなんて弟の友だちにすぎないわけで……」

 「そんなの告白してからがスタートじゃん。え、じゃあ蓮タン、そのまま会わなくなってそれっきり?」

 「いや違う。ある時どんな男が好みかっていう話をしているのを聞いたことがあって……姉さんが言うには、自分のために

素手でヒグマを仕留めてきてくれるような男がタイプだって……それを聞いて、オレには無理だとあきらめた」

 「それって義央だったらきっとすぐにでもクマを探して山に行っちゃうんだろうね」

 「ヒグマは近場じゃ会えないよ、北海道行かないと……ギーちゃんならロシアの地でグリズリーにでも挑むのかな?」

 「それはさすがに死ぬからやめとけって止めるな……ま、それはもういいじゃねーか。とにかくオレはもうあきらめたんだから」

 カルラが一つため息をついて、寝返りをうって壁側を向いた。義央の話が出たから寂しくなったのかもしれない。カルラに突撃するのと

グリズリーに挑むのではどちらがより大変だろうか……などと考えたが、確実に言えるのはどっちもオレには無理だという事だ。

そんな事を何となく考えながら、その夜は眠りについた。

 

 翌日の朝、キッチンに行くとマリアさんがすでに起きていてコーヒーを入れていた。

 「おはよう。コーヒー飲む?」

 「あ、いただきます」

 父子家庭で母は台風という環境で育ったせいか、女性がおだやかにコーヒーをすすめてくれる朝というこのシチュエーションに、

胸の奥がじんわり温まるような妙に甘いときめきを感じた。

 「さっき起きぬけに義央君の様子も見てきたけど、汗かいてるから着替えさせたいんだけどねえ。あたしが着替えを手伝うのと

あんたたちが手伝うの、カルラがヤキモチ妬くのはどっちだと思う?」

 「うーん……それは確かに難しいが、まあでもオレや涼介がやった方がいい……かな、多分」

 「じゃあ後で着替えさせてあげて。着替えはカルラに聞かないと分からないかな」

 そんな話をしているうちに涼介とカルラも起きてきた。もう少し遅くても良かったのに。マリアさんが義央の着替えの事を話しているのを

聞きながらオレは朝食を作ってみんなに出した。義央には軽いものを別に用意しよう。それから義央の部屋に食事を持って行き着替えさせて、

まだフラフラしている義央をベッドに寝かしつけた。と、枕元に小さいアルバムがあるのを見つけて何気なく開いてみると、

目つきの悪い金髪のガキの写真が目に入る。……あ、カルラかこれ。こんなモノどうしたんだと義央に聞くと、義央はオレの手から

アルバムを奪い取って胸に抱きしめたので、別に取り上げやしねーよと言ってやった。聞けば、カルラの実家のあのママさんから

二万で買ったのだと言う。

 「思いっきりボッタクられてんじゃねーか」

 「イヤッでも欲しかったし……それにカルラは写真を撮らせてくれないっていうし……今この写真があるおかげでカルラに会えないツラさも

いくぶんまぎれるし……」

 「オマエ、夜の街あんまり歩くなよ。有り金残らずむしり取られるぞ」

 「あー夜の街と言えば!蓮……カルラが店に出た帰り、涼介といっしょにカルラを迎えに行って……でないとカルラ一人で歩かせると、

百メートルで十人ぐらい男が寄ってくるから……ヘタするとカルラの方がお持ち帰りされに行っちゃうから……でもオレの立場でカルラに

強くダメとは言えないから、出来るだけさりげなく家まで誘導して」

 それは大げさだろうと持っていたが、その夜それが大げさでも何でもなくその通りだった事をオレたちは知った。なんだあのカルラの誘因力は。

ハーメルンの笛吹きか?町から男を消す気なのか?寂しくていつもより飲み過ぎたとカルラは言っていたが、そのせいかベッドに入れれば

わりとすぐに寝付いてくれたのでそこは初日より楽ではあったが……そんな数日が過ぎ、そして今日はマリアさんとカルラのオフの日が

重なったので、カルラはマリアさんのヒザ枕でゴロゴロと甘えている。本当にカルラ女ぎらいかよ、と言いたくなるような姿だった。

ヒザの上のカルラが甘えるように言った。

 「ねーマリアちゃん。蓮と涼介がずっとオレをよその男に近づけないようにたくらんでるの」

 さりげなくしていたつもりだったが、さすがにバレてるか。カルラの頭をなでながらマリアさんが答えた。

 「アンタって浮気っぽいからねえ、そりゃ警戒されるでしょうよ」

 ムッとした表情でカルラが言った。

 「浮気じゃねーよ。恋人でもねーし」

 「アラやだ。そんな事言っちゃっていいの?義央君が泣くわよ」

 「泣かねーよ。最初からそーゆー約束になってんだから。……あ、マリアちゃんはその辺の事、知らなかったっけ」

 そこでカルラと、このやりとりをぼんやり聞いていたオレと涼介も加わって、義央がカルラのしもべになったいきさつを説明した。

マリアさんは呆れ気味に言った。

 「あたしはてっきり、カルラが義央君を気に入ってずっと手放さないのかと思ってたんだけど……」

 身を起こしてマリアさんのとなりに座ったカルラがムスッとしてこたえる。

 「そうじゃねーよ、あいつはオレの命令がないと動けないから、いっつも命令待ちしてんの。だからいつもオレの方からイチャついてるみたいに

見えるかも知れないけど、本当は常に義央を抑えこんでるだけ。義央に自由にさせたらもう激しくて困っちゃうから」

 「あら、義央君そんな激しいの?」

 「三日ぶりに飼い主に会った犬みたい」

 「それはなかなか激しそうね」

 「てゆーかオレ、年下相手って初めてだったかも。年知らないけど多分年下だよねえアレ。なんかもー若いって怖いわ」

 「あんたエロいオッサンみたいなのがタイプだもんねえ。でもあんたの今までのクズみたいな男どもの中ではまあ義央君いくらか

マシな方じゃない?優しくて一途そうで、あんたももっと大事にしてあげなさいよ」

 義央のケンカに明け暮れていたバイオレンス時代を知るオレとしては、それは違うと言ってやりたかったが、言っても良いことは何もないので

思いとどまった。……まあカルラの元カレが義央のさらに上を行くバイオレンス野郎という可能性も十分にあるしな。一応、優しくて一途と

言えなくもないので、まあいいという事にする。

 

 そして翌日、今日はマリアさんは仕事に出かけて、カルラは家にいた。涼介は義央の食事やら着替えやらを持って二階に上がっていき、

今オレとカルラが向かい合ってソファに座っていた。カルラはソファの上でヒザを抱えて丸くなっている。

 「……ねー、蓮」

 「んー?」

 「エッチしたい」

 「と……突然何を言い出すんだ!?」

 明らかに動揺するオレ。いや、カルラのあんな綺麗な顔でそんな事言われたらそりゃ動揺するわ。

 「だってもう何日もご無沙汰だし……義央にはまだ会えないっていうし……」

 訴えるような上目遣いでオレを見ながらそう言ったカルラは、テーブルを乗り越えてオレに近づき、慌てて立ち上がったオレの腰のあたりに

抱き着いてきて、言った。

 「いいじゃん、ねーいいコトしようよ。義央にはナイショにしとくから」

 「ナイショとか言ってる時点でやっちゃいけない事なのはわかってんじゃねーか、放せコラ!!」

 オレはカルラを振りほどこうとするが、あまり乱暴にしてはという遠慮があるのと、意外にカルラの力が強いので(男の腕力なのだから

当然と言えば当然だが)いまいち振りほどけない。カルラはじわじわとオレの体の上方に手を伸ばしオレをふたたびソファに座らせて

さらに抱き着いてきた。

接近中

 「蓮ってけっこう着ヤセするタイプ?さわるとカナリいい体。これならもー全然イケちゃう」

 「いやダメだって!!義央のいない間にオレとカルラがややこしい事になったら一番ダメなやつだろコレ!!オレが義央に殴り殺されるわ!!」

 どうにかカルラの腕から体を抜いてソファから離れると、カルラはそのままソファに突っ伏して、みんなオレの事なんかキライなんだと言って泣き出した。

 「いやキライなんじゃなくて!オレ寄りもっとずっとカルラの事を好きな男が二階で寝てるからダメだって言ってるんだよ!」

 自分でも自覚しているが、カルラにせまられた事それ自体はそんなにイヤではなかった。……義央の事が無かったら流されるままに

カルラにおそわれてもいいかなーと思ったかもしれない。だが義央みたいにドップリとカルラにはまってトチ狂うのはまっぴらだ。

あのバカが目の前で犠牲になってくれたおかげでオレは助かったのかもしれない。だからあのバカにそれ相応の礼ぐらいはしないとな、

そう思って仕方なくオレはカルラの頭をなでてなだめにかかった。

 「泣くなよ、誰もカルラをキライだなんて言ってねーだろ。むしろ世話妬くために泊まり込んでんだから、オレも涼介もマリアさんも

カルラの事は好きなんだよ。だけどもっとずっとカルラの事を好きなのは義央だからさ、義央に後ろめたい事はやりたくねーんだよ」

 少々恥ずかしい言葉だったが……カルラは頭を上げ、涙をぬぐった。

 「泣いたから、見苦しい顔になってない?」

 「いや、そんなちょっと泣いたってカルラはくずれたりしねーよ」

 むしろ少し赤くなった目元が帰って色っぽく見える。その赤い目でカルラはオレをじっと見て言った。

 「ねえ……オレってキレイ?」

 「とっ突然何を言い出すんだ!?キレイとかキレイじゃないとか……そんなのどうでもいいじゃねーか!!」

 あからさまに動揺するオレ。赤面しながらオレは目をそらした。カルラは無表情で空を見つめ、独り言のように言った。

 「……だって、オレ………キレイじゃなければ必要とされない。必要とされなければ生きていけない」

 ……オレはこの言葉を聞いて、カルラの事が少しわかった気がした。あとで義央にも話してやろう。まずカルラには少し考えてこう言った。

 「カルラはキレイだし、義央はカルラをすごく必要としているよ。オレはたとえカルラがキレイじゃなくても、強いし仕事もできるし気遣いも出来て

すごい奴だと思っているよ」

うわーん

 センシティブすぎてメチャクチャ扱いづらい厄介な奴だとも思ってるが。と、いつからいたのか涼介がカルラの向こうに立っていた。

 「カルラちゃん、ギーちゃんがいなくて寂しいんだったらコレ、ギーちゃんの脱ぎたてTシャツあげるね。ウイルスが付いてるかも知れないから

顔には当てないようにね」

 そう言って涼介がカルラにTシャツを渡した。カルラはそのTシャツを胸に抱きしめて、言った。

 「義央の匂いがする」

 そしてTシャツを抱きしめたままソファに横になり、そのままうとうとと眠ってしまった。涼介がひざ掛け毛布をカルラの肩にかけた。

 「カルラちゃん、寂しくて夜あんまり眠れてないみたいだからさ、ギーちゃんの匂いをかがせたら落ち着くかと思って」

 「まあ効果はあったみたいだな」

 「よそに連れてきたネコの落ち着かせ方と同じ方法が通用したね」

 「カルラはネコと同じかよ」

 

 それからオレはカルラをそのまま残して涼介を連れて義央の部屋に行き、カルラに抱き着かれてせまられた話はカットして後半の

「キレイじゃなければ必要とされない、必要とされなければ生きていけない」というカルラの言葉を伝えて、それに対するオレの感想も加えた。

 「……つまりカルラは、必要とされる事をものすごく必要としているんだ。必要とされてると思えば、女ギライのクセにホストクラブで

働く事も出来るし、男に誘われればホイホイ体をゆるしてしまうんだろう」

 まだ少し苦しげな義央が言った。

 「すみれママが言ってたけど、カルラって付き合った男の言う事何でも聞いて尽くしちゃうタイプなんだって」

 「なるほどねー、必要とされればとことん尽くしちゃう、そーゆータイプっているよね」  涼介がうなづきながら言った。さらにつづけて、

 「アレ?でもだったらさー、なんでカルラちゃん、ギーちゃんが付き合ってって言ったの断ったんだろう。誰でもいいならいいハズなのに」

 「そうだよな。あれだけ求めてきた義央をフッたのはなんだったんだろうな」

 「すみれままが言うには……カルラ、フラれてキズつくのがイヤだからちょっと何かあると自分から相手をふっちゃうんだって。

だからオレの事もなんか、フラれるかもって思ってフッたのかも」

 「うーん、そう言えばカルラちゃん、ギーちゃんの事を育ちが良いからとか言ってたっけか」

 「オレ別にそんな育ちが良いわけじゃないんだけど」

 「カルラの育ちよりはだいぶいいだろ。オレもカルラの生い立ちを聞いた時はちょっと引いたからな。……あの生い立ちを知って

義央が幻滅して逃げ出すと思ったのかな、カルラは」

 「オレは素直にいい家族だって思ったんだけど」

 あそこで義央が引かなかったのが、カルラには意外だったのかもしれない。まあ引くでもなく見下すでもなく同情するでもなく

ありのままを受け止める義央みたいな奴は、たしかに珍しいかもな。だったらもう付き合っちゃえよ、と思うがカルラの扱いの面倒くささは

オレもヒシヒシと感じているから、そんなに簡単ではないか。あーもーメンドクセーなアイツ。あれでエロくなかったらやってらんねーが、

エロいからイイのか?……まあ、それはそうかもしれない。

 あまりカルラをほっとくわけにはいかないからもう行くと義央に言うと、義央はカルラに伝言を伝えてほしいと言ってきた。

 「なんて伝えるんだ?」

 「カルラかわいいよキレイだよステキだよ愛してるよって十回ずつぐらい」

 「誰が言うかそんなの自分で言え!」

 階下に降りると、カルラはまだソファで義央のTシャツを抱きしめたまま横になっていたが、目は覚めているようだった。

涼介がカルラの頭をなでながら言った。

 「カルラちゃん、ギーちゃんが愛しているよって伝えてって。それにカワイイしキレイだって」

 多少雑だが伝えるのかよ。カルラは体を起こして義央のTシャツをぼんやり見ながら言った。

 「……なんか義央の夢を見てた」

 そう言うと、まだ日も暮れない時間だというのにカルラは義央のTシャツを持って自分のベッドルームに入っていった。

 ……そこで何をしているのかなどと、ヤボな詮索はしない。まあ一人で何とかしてくれるならそれに越した事はない。

 やがて日も暮れてマリアさんが帰ってきてソファに座ると、カルラが隣に座って言った。

 「ねーマリアちゃん、オレさ……多分今、寂しい。義央がいなくて寂しい……義央に会いたいよ」

 「アラ、カルラのそんな言葉を聞くのは初めてね」

 「うん、オレも……初めて思った。誰もいなくて寂しい事はあったけど、人はいるのに義央じゃないのが寂しいって思ったのは多分……

今までなかった」

 「義央の方は最初っから一日中カルラに会いたいってずーっと言ってるけどな」

 あのバカのムカつく姿を思い浮かべながらオレは言った。

 「義央、まだよくならないの?」

 寂しげにカルラが言った。義央がよく言っている捨て猫のようでほっとけない感じのカルラというのはこういうカルラの事だろう。

 「ギーちゃん、だいぶ元気になってるんだけど、ウイルスがすっかりいなくなるまでもう少し待った方がいいよ。そうだねえ、

あと四日ぐらいたったらいいかな?」

 「……長い」

 ガックリと落ち込むカルラをなだめて涼介が、明日はケーキの食べ歩きをしようよと誘っている。女子か。まあ少しでも楽しい事をして

気を紛らわした方が良いし、男の多い所は危なくて連れて行けないからケーキ屋ならまあ安心か。その夜もカルラと並んで寝る準備をしていると、

カルラがこんな話をしてきた。

 「ねー涼ちゃんは初めて付き合った子ってどんな子で、いつだった?」

 「んーとあれは……六才だったかな。同じインターナショナルスクールの子で年も同じ、アメリカ人の女の子」

 「はえーな。しかもアメリカ人……まあ涼介らしいか」

 「蓮は?初恋の人はあきらめちゃったんだよね。それから何かあった?」

 「うーんまあ……十六で義央の姉さんを好きになったんだけど、高校の同じクラスの子に好きって言われて、付き合ったのは

その子が最初で……」

 「ふーん、付き合ってって言われて付き合って、その後別れてって言われて別れたんだ」

 「ちょっな……カルラ!なんで分かるんだよそんな事」

 「だって蓮、自分がイヤになるぐらい父親ソックリだって言ってたから、そうなんでしょう?父親と同じことをしたんだね。特に好きでもなかった子と

言われるがまま付き合って、たいして好きじゃないのが態度に出ちゃって、私の事好きじゃないのなら別れましょうとか相手が言ってきて

それでアッサリ別れちゃったんだ」

 まるで見てきたかのように正確に言い当てるカルラ。

 「あーダメだよ蓮タン。そーゆー時の女の子は、そんな事ないよ好きだよって言われるのを待ってたんだから」

 「ああ……それはそうかもしれねーが、実際オレは相手の子をたいして好きじゃなかったし」

 「好きでもないのに付き合ったんだ。蓮ってサイテー」

 「カルラに言われたくはねーよ!」

 「オレは義央には最初にちゃんと、好きじゃないから付き合えないって言ってやったよ。それでもしつこく食い下がってきたのは向うだったし」

 「……うん、まあそれはそうだな。……今思うと相手の子には悪い事したなーとはオレも思ってる」

 しかもたいしていい彼氏でもなかったしな。付き合った相手をメロメロに満足させているであろうカルラの方がよっぽどえらい。

 「蓮はねえ、流されるまま流されて色街の女の所に転がり込むタイプだね。よく見かけたよこーゆー男」

 「おっカルラちゃんのお墨付きのヒモタイプだって蓮タン」

 「うわー!!それはイヤだ!!」

 「イヤなら行動は気をつけろよ。じゃあおやすみ」

 そう言ってカルラは寝返りをうった。初めて付き合った相手の話はカルラがふったのに、肝心のカルラの話は聞きそびれた事に気が付いた。

……まあその話は義央が回復してからアイツも交えてやった方が良いか。そういえば義央の初めて付き合った相手って……

オレの想像できる範囲内では、カルラだとしか思えないんだが。初めてがカルラか。……キッツいなそれ。  翌日、カルラは涼介と

食べ歩きに出かけたので、ほぼ回復した義央はカルラのいない間にシャワーを浴び、少し外を歩いた。まだカルラに会うのは待った方がいいと

伝えると、おとなしく部屋に戻った。カルラに会いたいとグズグズ泣き言をいうが、カルラに会わせると言ったワガママは一度も言わない。

……カルラを守るための隔離だからまあ当然ではあるが。あまりにカルラに会いたいと義央が騒ぐので、カルラの匂いのついた服でも

持ってきてやろうかと言ったら、それは興奮しすぎてまた熱が出るかもしれないからやめとく、と珍しくまともな事を言った。それで

昨日カルラが義央に会えなくて寂しい、会いたいと言っていたと教えてやると、そのとたんに幸せでトロけそうな顔をしやがったので、

バカバカしくなってオレは義央の部屋を後にした。それから夕食のメニューを考え始めた。……いつの間にか完全にオレが料理担当になってるな。

まあカルラがあんな調子だから仕方がない。オレが食わせないとあれ以上やせたら困るしな。……って保護者かオレは。

 

 その日の夜、今日から一人で寝るとカルラが宣言したので、オレと涼介は二階の個室に移った。一人で大丈夫?と涼介がきくと、

義央が戻るのを待ちたいから多分ガマンできるとカルラは答えた。  そんなこんなで三日後、まず朝食を終えてから義央の様子を見て、

もう大丈夫そうだと判断してついに義央をカルラの待つリビングに連れて行った。会った瞬間、カルラ〜と声を上げソファに座っていたカルラを

押し倒さんばかりの勢いで抱きしめる義央。カルラは黙って義央に絡みつきキスをする。今すぐおっぱじめてしまいそうな勢いだったので

慌ててマリアさんは仕事にでかけ、オレと涼介は義央の回復祝いをやるから買い物に行ってくると言って家を出た。

 「どーしよ、とりあえず二時間、いや三時間ぐらいかな?そのぐらいは二人っきりにしてあげないとね」

 涼介が言った。

 「そーだな。まっさいちゅうの所を入っていきたくはないから、できるだけ時間はつぶそう」

 「じゃあやっぱりお祝いのお酒とか買おうか」

 「ちょっと待てよ。涼介オマエ、酒飲める年なのか?」

 「んもー、なんかよく高校生ぐらいに間違われるけど、とっくに成人だよボクは」

 「そーか……そーいやお互いの年とかあんまり知らなかったよな。カルラも義央の事を多分年下とかアバウトな事言ってたし」

 じゃああとでみんなで年を言いっこしよう、という話になり、それから酒や食べ物、あとカルラには何か甘い物をという事で

アイスクリームを買うことにしたが、また食べる姿がエロいんだろうな。それからマリアさんにも何か、と思ったがオレたちは

あの人の好物を知らない……が何となくイメージで、酒と肉があればいいんじゃないかという事になった。そういえば肝心のギーちゃんの好物は?

と涼介に聞かれたが、アイツは好き嫌いがなくて腹が膨れりゃ何でもいい奴だからとこたえた。というか、カルラがいりゃ満足だろうあのバカは。

 

 できるだけゆっくり時間をつぶしてから飲食物を買ってカルラの家に向かった。出迎えたカルラは、欲求が満たされたのか

妙に色ツヤが良くおだやかな表情で、なんだか無性にキラキラしていた。対照的に義央はソファでぐったりしていた。どーしたギーちゃん?

と涼介がきくまでもない事をきく。

 「……病み上がりでだいぶ体力落ちてた……正直キツい」

 ぐったりして言った義央の背中を指でつつきながらカルラが言う。

 「もう、言っとくけどまだゆるしたわけじゃないからな」

 「いやそこはゆるしてあげてよカルラちゃん」

 「ダーメ、また夜に……ね」

 義央の体に覆いかぶさるように体をあずけるカルラ。まあここ十数日分のイチャイチャを取り戻そうとすればこうなるか。

義央とカルラをリビングに残し、オレと涼介はキッチンでささやかな祝いの準備をする。やがて仕事から帰ったマリアさんをまじえて、

酒と料理を出して義央の回復祝いを始めた。すると義央が言った。

 「アレ!?涼介って酒飲んでいいの?」

 「ソレ今日蓮タンにも言われたけどさあ。ボクの事いくつぐらいだと思ってるの?」

 「……十五、六さいぐらい?」

 「ないない、探偵事務所にそんなガチの少年探偵いないよ。ボク今、二十四」

 「ええ!?年上かよ!?」

 オレは思わず声を上げた。まさか上とは思ってなかった。義央はそれにはさほど驚かず、カルラを見て言った。

 「カルラは確か二十六だよね?」

 「あれ、義央に言ったっけ?」

 「イヤ、地下ファイターを十六の時からやっててもう十年たったって話を前にね」

 「ああ、そうだね。オレは今二十六。マリアちゃんはオレ寄り一つ下だっけ?」

 「そう、二十五」

 ききづらいかと思っていた女性の年齢をアッサリ答えるマリアさん。

 「それで蓮タン、ボクより下ってことは……?」

 「ああ、二十三」

 カルラが義央の顔をまじまじと見つめて言った。

 「じゃあ義央も……」

 「いや、ソイツは早生まれだからオレより一コ下。まだ二十二」

 「イヤ学年いっしょなんだからそこはいっしょでいいじゃねーか!」

 ムキになってそんな事を言う義央。フラリとカルラが義央から体を遠ざけて言った。

 「二十二……うそ、若い………」

 「いやたいして変わんないよ!三、四年の違いじゃないか!」

 義央の若さに引くカルラの肩をつかんで引き戻そうとする義央。

 「いやオレとの違いじゃなくて……だって、前カレの約半分」

 「それは……かなり大きいな」  オレは思わずそう言った。前カレってこの家くれた人か?だったらやっぱり四十代ぐらいにはなるか。

 「アンタの男って三十代四十代が多いからねえ」

 「なんなら五十代でもイケるよ」

 マリアさんの言葉にこたえるカルラ。年上好きなのだな。

 「なるほど……ギーちゃんみたいな若い男は初めてなんだ」

 「まあ十代のころは二十代とも付き合ってたけど年下は初で……一、二コ下かなとは思ってたけど、まさか四コ下とは……

うわーコドモじゃーん」

 戸惑いを隠せないカルラに義央が食い下がる。

 「コドモじゃねーよ!!てゆーか年なんかどーでもいいじゃねーか!!」

 「でも……時々ガキっぽいなと思ってたら、まんまガキだったんだって……まあ納得はしたけど」

 「ガキって言うなよ!!それ以上オレをコドモ扱いすると……」

 いったんここで赤面して口ごもる義央。それからようやく言葉をつづけた。

 「……カ、カルラの口をふさいじゃうからな」

 テレながら言うな。そーゆーセリフはさサラッと言え。見ている方が恥ずかしくなる。カルラはちょっとニヤニヤして言う。

 「……もう、ムキになる所がガキなんだから」

 そして目を閉じて軽く上を向き、キス待ち顔をするカルラ。恥ずかしそうにその口をキスでふさぐ義央。だからやるならテレずにやれっつーの。

それからカルラが、ホストクラブの客からのもらい物だという高そうな酒を開けてくれた。そうして楽しく飲んでお開きとなった。

あのあと義央はカルラを満足させて許してもらえたのかどうか……などと余計なことを考えそうになり、慌てて頭からその想像を追い払って

眠りについた。まったくアイツら……世話がやける。

 

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