君と呼べない君を想う

千尋の谷を転がり落ちるように恋に落ちた編4

 

 三日目の朝、蓮がオレを誘導して身支度を整えた。やっぱりカルラに会わせないようにしているらしい。

今日までで試合に負けた人間はすでに帰ってしまった者もいるし、結果を見届けるために留まっている者もいるが、

勝ち残った選手の人数はだいぶ減ってきているので、ロッカールームなどは初日よりかなりすいていた。

オレは今日も上の空のまま勝ち残り、カルラはふわりと優雅に勝ち、蓮と涼介も勝って、オレはここでようやく気が付いたのたが

勝ち残ったのはこの四人になっていた。という事は明日はあの三人のうちの誰かと当たる事になるわけだ。

 うわっどーしよう……カルラと当たりたいとは思うけどそれはどんな形でもいいからカルラのそばにいたい、カルラに触りたいという

完全な下心になってしまう……こんな気持ちで当たってはいけない、ちゃんと心を入れ替えなくては。

蓮は地味に手ごわい奴なのはよく知ってる。なかなか厄介な相手だ。涼介はあまりじっくりとは見ていないが、

ダンスのような派手な動きで見せる戦闘に特化しているように見える。しかし、ここまで勝ち残ってきたのだから実力も

十分あるだろう。どんな動きで来るか読めない分やりづらい相手かもしれない。さすがに明日は上の空では勝たせてもらえそうに

ないので、いくらかイメージトレーニングをして明日に備えた。そうして心の準備を済ませると……激しくカルラに会いたくなってきた。

 思えばもう丸一日以上カルラに近寄っていない。どうにかカルラにイヤがられない形でこっそり近づく事はできないだろうか。

オレはそっと蓮から離れて、カルラを探し始めた。すると、カルラと涼介が並んでベンチに座っているのを見つけた。

取り巻きがまわりをうろついてタオルだの飲み物だのを持ってきていたが、カルラが声をかけて取り巻きを解散させていた。

オレは取り巻きがいなくなったのを見届けてコッソリとベンチの後ろに忍び寄った。カルラと涼介の会話が聞こえる。

後ろに怪しい人が

 「……だから義央ちゃん、本当にカルラちゃんの事が好きだって言ってるんだよ」

 「だからムリだって言ってんじゃないか。体だけの関係になってって言われたんなら相手する余地もあるけど、あんな

身も心も捧げますみたいな事いわれちゃあ、正直重い」

 「まあ義央ちゃん、恋愛経験が乏しいようだから、そういう言い方しかできないんだよ多分」

 「そういう純情な奴は純情同士でやってりゃいいんだよ、こんなクズビッチにはいかにも場違いだ」

 「クズビッチなわりには男に捨てられて泣いてたようだけど」

 「あれは違うって!捨てられて泣いたわけじゃなくて……」

 少し離れているため顔は見えないが、ややムキになったような声を出すカルラ。

 「義央がオレの事、いかにも可哀そうにって捨て猫でも見るような目で見るもんだから、あんなガキに同情された

テメェがあまりに情けなくって悔しくて、それで泣けてきたんだよ」

 え、じゃあオレがカルラを泣かせたの?そうなの?

 「純情な義央ちゃんを前にカルラちゃんもピュアな気持になっちゃったから……とかじゃなくて?」

 「そんなんじゃねーよ。まああいつがいると調子狂うのは確かだけど。おまえあいつの手先なんだろ?

こんなクズビッチ、悪い夢でも見たと思って忘れてしまえって、言ってやってよ」

 「うーん、言って止まればいいんだけどねー。ギーちゃんカルラちゃんの事クズビッチとは思っていないみたいだし」

 当たり前だ。少々男好きが激しくても、カルラはオレの天使だ。

 「ビッチと思ってくれた方がマシだったんだけどねぇ」

 カルラはため息をついた。そう言われたってオレには天使なんだから。

 「あ、それでカルラちゃん、愛人だった人とはもう完全にカンケイ切れちゃったの?」

 「それはまだ。手切れ金もせしめてないし、ボディーガードとして支給された道具の類は返さなくちゃいけないから、

この大会が終わったら会う事になってる」

 「冷静に会える?」

 「さあ、殴るかもね」

 「でさあ、その相手ってどういう……」

 相手の男の話になってきたので、オレはそっとその場を去った。

 

 うーん、カルラにとってオレは重かったのか。涼介みたいに軽く話しかけて何となくお友だちになったりできれば

よかったのかもしれないけど……でもオレにはそういう風にはできないだろうな、やっぱり。

 蓮に見つかって首根っこをつかまれ、個室にムリヤリ放り込まれた。蓮はちょっと怒ってた。

 「なにやってたんだよオマエ、カルラを探してウロチョロしてたんじゃねーのか?」

 「そんなにウロチョロはしてないよ」

 カルラの後ろの方に潜んでただけで。

 蓮は少し呼吸を整えると、ベッドに座ったオレの正面に立ってオレを真っ直ぐ見据えた。

 「そもそもオマエとカルラとは生きる世界が違うんだ。魚と鳥ぐらい違う。違い過ぎてオマエにはその違いが

分からねぇようだがな、カルラの方は分かってるんだ。だからムリだって言われたんだよ」

 「蓮がカルラの何を知ってるんだよ?会ったばかりなのは蓮だって同じだろうに」

 「ヴァンプのウワサぐれぇは知ってる。話半分以下だと考えてもだな、気まぐれに男をとっかえひっかえしているであろう事は

察しがつく。オマエはカルラのとっかえひっかえする男の中の一人になりたいと思うのか?それでオマエは満足か?」

 じっとオレを見る蓮。そういう状況を想像してみるオレ。

 「それは……正直言うと、あんまりうれしくない」

 「それ見ろ。オマエがカルラ好みの男になるとか、カルラの住む世界へ行くとなったら、そーゆー事を受け入れる男に

なれなきゃハナシになんねーんだぞ」

 「うーん……カルラの世界ってそんなにオレの世界から遠いのか。暴力の世界では地続きになっていたのに」

 「だから暴力だけが唯一の接点なんだ。オマエから見たカルラ何てほとんど宇宙人なんだよ。オマエはカルラを追って

見知らぬ異星に行ってそこに住もうと思うのか?」

 「それは……その星によるけど」

 「オマエが住むのは難しい所だと思え。だからなぁ、会っちまったのが何かの間違いでそもそも会うはずのない

相手だったんだよ。月に帰っていくかぐや姫みたいなモンで、地上の男には結局見送る事しかできねえんだ。

だからカルラの事も、黙って月に帰らせてやれよ、なあ」

 そう言われているうちにオレはじわじわとカルラを見送る気分になっていた。そうか、さすがは長年オレのブレーキ役を

務めている蓮は、今こうしてオレを止めにかかっているんだ。そして確かにいつもならこれでオレは止められている所だったろう。

でも……それでも。

 「カルラは泣いていたんだよ!」

 唐突に声を上げるオレ。やや驚く蓮。

 「あれはやっぱりオレのせいじゃないよ、カルラは捨てられて傷ついて悲しくて、でもそれまでどこにも泣ける所がなかったんだよ!

オレの前でカルラは、ここでなら泣いてもいいんだってきっと思ったんだよ」

 何が何やらわからず困り顔の蓮が答える。

 「泣いたってのはあの捨てられた朝の話か?やっぱりあれ泣いてたんだな……でもそれとこれとは」

 「違わないよ!カルラは本当はたくさん傷ついているんだ、蓮みたいな男が勝手にカルラを異星人に仕立て上げるから

カルラは悲しくても泣く事も出来ないんだ。本当はカルラは、お腹をすかせて凍えている捨てられた猫みたいな心持ちなんだ。

怯えているから差し出された手をひっかいてしまうけど、それでも差し出す手が必要なんだよ!オレはどんなにひっかかれても

手を差し出すのをやめない!カルラを一人にはさせない!!」

 ムスッと蓮がオレをにらんだ。

感情的になる

 「百歩譲って捨てられた猫のようなってのは認めるとしても、その猫をよく見ろ、でっけえトラかヒョウだ。

軽いひっかきでも命にかかわるぞ」

 「命を落としても構わない。カルラなしでは生きている甲斐がない」

 オレがそう言い切ると、勝手にしろこのバカ!と言って蓮は出ていった。思えばオレが蓮の言う事にここまで逆らったのは

初めてじゃないだろうか。今まではたいがい、蓮の判断は正しいと感じて言う通りにしてきたんだ。蓮は怒って出ていってしまった。

オレは自分の心の一部が欠けてしまったような胸の痛みを覚えた。じっさい蓮はほぼオレの心の一部だったのだ。

それがカルラと出会い、オレの心がカルラで満たされてしまった事で蓮はオレから押し出された。そうしてオレの心は蓮を失った。

まだカルラを手に入れたわけでもないのに。本当にこれで良かったのか?迷いに答えが出ないまま三日目の夜は終わった。

 

 翌朝、一応食堂では蓮と涼介と一緒になったが何となく蓮とはお互い気まずいような不機嫌な感じになってしまっていた。

 「あれ、二人ケンカでもしたの?」

 察しのいい涼介が聞いてきた。

 「コイツのバカさ加減に呆れているだけだ」

 ムスッと蓮が答える。

 「もしかしてカルラちゃんの事で?」

 「あれだけフラれたのにまだ諦められないそうだ。とんだストーカー野郎だな」

 「メンタルの強さは認めるけどねぇ」

 「強いんじゃなくて何も感じてねーんだろう」

 涼介がオレの顔をじっと見て言った。

 「カルラちゃんて、そんな忘れられないぐらいステキだったの?」

 「そ……それはもちろんそうだけど」

 みるみる顔が熱くなってくるオレ。

 「そんなに良かったんだ?」

 好奇心むき出しで聞いてくる涼介。

 「イヤ、それもそうではあるんだけど、もう五感すべてでエロかったけど、そうじゃないんだよカルラは。

なんか心の奥がひんやり凍えてる感じで、そばにいて支えてあげたい感がものすごくて!イヤこれはオレの思い込みかも

しれないけれど、でもカルラは多分……本当は結構傷ついてる気がする」

 「熱いねぇ」

 からかうように涼介が言った。確かにちょっと熱くなり過ぎたかもしれない。するとそこへ取り巻きに囲まれながら

カルラがやってきて、離れた所に座った。オレは当たって砕ける覚悟でカルラのそばに行き、声をかけてみた。

 「カルラ、近くに座ってもいい?」

 「ダメ」

 ふいと顔を背けてアッサリ言い放つカルラ。もとの席に戻るオレ。

 「……ダメだって」

 「そりゃそうだろうよ」

 「ホント義央ちゃんメンタルは強いねぇ」

 

 さて問題は試合の組み合わせだ。着替えて試合場に行き、番号が呼ばれるのを待つ。今までカルラよりオレの方が先だったから

今日もそうなるかと思ったら、今日は違った。まずカルラと涼介の対戦になった。って事はオレは蓮と当たるのか。

 カルラと涼介が向き合うと、不意に涼介がくるりとバック転をしてから構えた。カルラはターンするような動きで間合いを詰めて

それにこたえる。これは涼介が「楽しい戦いにしようよ!」と誘ってカルラがそれに乗ったわけだ。まるでダンスかアクロバットショーのように

大きな動きでぶつかり合う二人。まわりで見ている方も思わず拍手や歓声で盛り上がる。だけどオレは正直言うと、

涼介にヤキモチを妬いていた。カルラを誘ってカルラがそれに答えてくれる……うらやましい。涼介がうらやましい!涼介になりたい。

イヤ、バカな事を考えるのはやめよう。オレはどうせ涼介にはなれない。涼介の動きのスキをついてカルラが涼介を捕まえて床に押さえつけた。

ここで勝負あり。カルラの勝ち。

 

 次はオレと蓮と試合だ。向き合った蓮が無言でオレに「言っても分かんねー奴は殴り倒して連れ帰る。カルラの事はもう忘れろ」と

言っているような気がする。オレはオレで「蓮に負ける程度の男ならしょせんカルラには相応しくないとあきらめる。だがオレが勝ったら

もう一度カルラにアタックするからな」と蓮に向かって宣言するような気持になっていた。一言も言葉は交わしていないが、オレの中では

そういう心づもりで、多分蓮の方もそんな気持ちで試合は始まった。

 蓮は相手のスキを突くのがうまい。大きく動くとスキが大きくなるので慎重に攻めて、蓮が動いたらわざとスキを作って蓮を

誘い込もうとしたが、蓮もそう簡単には乗ってこない。小競り合いが多く決め手に欠ける試合展開の中で、オレ達の心中は

だんだんガキのケンカのようになっていった。お互いの我を通そうとして、ムキになって意地を張りあう。

「カルラがスキだ」「フラれたんだから諦めろ」「諦められないよ好きなんだから」無言でそんな事を言い合っていた気分だ。

結局オレの執念が上回ったものか、蓮を打ち倒してオレが勝った。  そーなると明日の決勝でオレはカルラと戦う事になる。

 

 慌ててカルラを探すと、一応試合は見ていてくれたようだった。オレは、自分の気持ちをちゃんとカルラに伝えたい。カルラに駆け寄り、右手を差し出す。

 「あの、明日の対戦よろしくお願いします」

 カルラは不審のこもった目でオレを見て、半ばイヤイヤ右手を出してオレの手の端っこをわずかにつかんだ。オレは左手を添えて

カルラの手を両手でしっかりつかんで、それからその手を額に押し付けるようにひざまずいて頭を下げて言った。

 「カルラの言う事何でも聞きます、雑用でも何でもします、奴隷でいいのでどうかカルラのそばにいさせてくださいっ!!」

 しばし世界が静かになった。カルラが怒ったような口調で言う。

 「こんな事されちゃ迷惑だって分かんねーのかよ。まず顔上げろこのバカ!」

 顔を上げろと言われたので、ヒザはついたままオレは顔を上げた。カルラは困ったような顔をしている。

 「よく知りもしない相手に向かって軽々しく奴隷になるとか言うんじゃねぇ!本当に騙されてどっかに売られても文句は言えねえんだからな!」

 「確かにオレはカルラの事をそんなに多くは知らないけど、でもオレはカルラが優しいのは知ってるよ!!」

 カルラは驚きの表情を浮かべた。その顔がみるみる真っ赤になる。

赤面カルラ

 「な……何言ってるの?なんで?」

 「カルラがオレをだまして売るつもりならそんな事言わずにもっと簡単にだませたはずだしオレが何かバカな事を言ったりやったり

するたびに必ず注意してくれるし、それに対戦相手に大ケガさせないように毎回優しく組み伏せて勝っているし」

 言いながらオレは立ち上がってジワジワとカルラに詰め寄っていった。

 「な……違う、あれは、そうじゃなくて……」

 恥ずかしさと戸惑いで顔を真っ赤にしたカルラがジワジワと後ずさる。

 「カルラは優しくて傷つきやすいんだって事、オレは知ってるよ」

 カルラの顔をじっと見つめる。するとカルラはつかまれた右手を振りほどいて

 「へ…ヘンなコトばっかり言ってんじゃねーよ、バーカ」

 そう声を上げると走り去ってしまった。最後の言葉は怒っているというより、多分にテレかくしだったように思う。

テレて走り去るカルラに、なんとも甘酸っぱい想いがキュンキュンこみ上げてきてたまらない気持ちになる。

……けど、そういえば肝心の返事をもらっていない事に後から気が付いた。

 

 食堂では蓮が、オレが一撃入れた左側頭部あたりを保冷剤で冷やしていた。隣に涼介もいる。

  「蓮……なんか、ゴメン」

 「バカ、勝って謝る奴があるか」

 「イヤそうじゃなくて、その前のいろいろな事……」

 とにかく蓮には悪い事をした、気がしたのでとにかく謝るべきだと思ったのだ。

 「……オレの方も少々言い過ぎた。オマエが誰を好きになろうがどれだけ引きずろうが、オレにはカンケーねぇのにな」

 ぶっきらぼうなまま蓮が言った

 「あ、お二人仲直り?」

 涼介がニコっと笑って言った。蓮が少し言いにくそうに言う。

 「さっき涼介に言われたんだよ。オレがあんまり義央にカルラの事を忘れろ忘れろ言ってると、なんか前にカルラが言ってたみたいに

オレがカルラに義央を盗られて妬いてる奴みたいに見えるって」

 「イヤ、オレは別にそんな風には思わないけど」

 「ちょっとでも他人にそう見えてたりしたら心外だからな。もうオレは止めないしせいぜい頑張れって言ってやるよ」

 そこで蓮はオレの方を真っ直ぐ見た。

 「しかし、奴隷にしてくださいとか言うかフツー」

 「さすがギーちゃん、予想の斜め上を行く男だね」

 二人とも呆れた顔をしている。

 「イヤだって、オレだって本当はカルラの恋人になりたいよ、だけどそれはムリってカルラに言われたんだから、だったらせめて

どんな形でもいいからカルラのそばにいたいんだよ!」

 「それにしたってなあ……こんなのに付きまとわれてカルラもいい迷惑だよな。よく考えたらカルラの方はまあ男好きで

少々尻が軽いとはいえ、言う事やる事は割と筋が通って常識的ではあるわけだ。全面的にオマエの方がおかしいわけで」

 「でもカルラちゃんが優しいってのはよく見てたと思うよ。ボクもカルラちゃんとの対戦ではあんまり痛めた所もないし。

前日までの打ち身の方がまだ痛いぐらいだけど、対戦してなくてそれに気づくのはやっぱりちょっと難しかったと思うよ」

 「アイツ、顔がドS顔だからな」

 「まあイメージはね、でもギーちゃんに言わせればいたいけな子猫ちゃんなんでしょ?」

 「うん……結構甘えてくる感じでイヤイヤその話はまあ、やめておくよ」

 話題を変えたくて蓮が頭に当てている保冷剤を見て言った。

 「ゴメン、オレは蓮に優しくないから、痛かっただろコレ」

 頭をなでようとすると蓮に逃げられた。

 「べたべた触るな。誤解を招く」

 「誤解ってなんだよ、もう。カルラ以外の男は好きじゃないったら」

 ……なにか違う話をしよう、と考えて涼介に話を振ってみる。

 「今日カルラと対戦してみて、どんな感じだった?オレ明日カルラと当たるから」

 「その前にオレと涼介の一戦がある」

 「あ、三位決定戦もあるのか。んで、カルラとの手合わせって……どんな感じ?」

 すこし考えこんでから涼介が答えた。

 「うーん、例えるなら……固定ベルトなしでジェットコースターにハコ乗りして、それで振り落とされた、みたいな感じ?」

 「……うん、なんかよく分からないけど……スピードが印象的って事かな」

 「うん、まあうまく言えないや」

 ニッコリ明るく言われてしまうともうこれ以上は聞けない。

 「まあとにかく明日はカルラとの対戦だ。オレが勝ったら……カルラも少しぐらいはオレの事を見直してくれるかもしれない」

 「それで奴隷として使ってもらえるかもしれねーと?」

 「うん……まあそうだ」

 「で、負けたら?」

 蓮が意地の悪いことを聞いてきた。

 「うーん……負けて、奴隷もイヤだと言われてしまったら、さすがにオレも引き下がるしかないかな……まあここで負けるような男では

しょせんカルラには相応しくない男なのだと納得するしか……ない、と思う」

 自分で言っててどんどんプレッシャーを感じてきた。まずい。自分で自分を追い詰めてしまった。気分を変えるためまわりを見回してみた。

 「カルラは……見かけなかった?」

 「さっき取り巻きが二、三人食事を持って行ったから、多分カルラちゃんは部屋で食べてるんじゃない」

 「あんなやり取りがあった後で顔を合わせるのは気恥ずかしいんだろうよ。オレだってアイツがあんな赤面するなんて思ってもみなかったから」

 「ねーびっくりだねー。ギーちゃんて、カルラちゃんのかくしている感情を引っ張り出す才能があるのかもね」

 オレはあのテレるカルラを思い出して、またキュンキュンした。とにかく泣いても笑っても明日が最終日なのだ。

後悔だけはしたくない。とにかく全力を尽くそう。そう考えながらオレは、あの時両手でつかんだカルラの手の感触を思い出していた。

やっぱり好きだ。カルラの手触りカルラの姿カルラの声カルラの匂い、舌で味わうカルラの味……五感すべてで、カルラを好きだ。

でもカルラの姿を見られるのは明日が最後になるかもしれない。切なさと不安に苛まれながら、四日目はなかなか寝付けなかった。

 

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